HOME > officee magazine > ワークスタイル > 【Psychic VR Lab】どんなにバーチャルが発達しても、物理的なオフィスはなくならない。大切なのは、同じ空間で感情を分かち合うこと
VR(仮想現実)の技術を用いたファッション向けサービスや、VRクリエイションプラットフォーム『STYLY』の開発を手がける、株式会社Psychic VR Lab。従来のECサイトはもちろん、実店舗でさえも成し得なかったブランドの世界観を体験できるサービスとして話題を呼んでいます。ファッションの他にも、日常生活をより創造的で豊かなものにするため、さまざまな分野におけるVRの可能性を日々追求しています。
同社のオフィスは、新宿にある「MORIAURA」というビルの2階と3階部分。蔦で覆われた螺旋階段をのぼると、ラボラトリーのようなワークスペースと、アーティスティックな雰囲気を感じるフリースペース「POWER ∞SPOT」が併設されています。同社のオフィスには、どのようなこだわりや思いが詰まっているのでしょうか。クリエイティブディレクターの八幡 純和さんにお話を伺いました。(公開日:2017/11/16)
はじめは代々木のシェアオフィスから、4人でスタートしました。その後、リクルートが運営している「TECH LAB PAAK」というところへ移りました。渋谷のApple Storeの上にあるのですが、スタートアップ企業の運営や、これから起業をしようとしている人が、期間限定でオフィスを借りられるんです。1期(半年)で応募をするのですが、結果的に僕らは2期(1年)居させてもらいました。完全無料で利用できるので、かなりお世話になりましたね。そして、今年の4月に現在のオフィスに移転をしました。
これだけインターネットが発達しても、やはり実際に、投資家や取引先などに会って話すことは多いんです。なので、都内各所へのアクセスのしやすさはメリットですよね。渋谷に関して言えば、クリエイターが自然に集まってくる印象があって、普段は交わらないような人が交錯する感じがします。一方で、今のオフィスがある新宿御苑側は比較的落ち着いています。開発や事業に集中できる環境だと感じますね。立ち上げ時はいろんな人と交流することが大事だと思うんですけど、今は人数も増えてきたので、会社として、チームとして、開発に集中できるのは大きなポイントかなと思います。
代々木や渋谷に関しては、スタートアップ企業が多いというのも関係しているんです。特に「TECH LAB PAAK」には、VRやAR(拡張現実)をやっている日本でも指折りのグループ・チーム・会社が20以上いました。他にも、ロボティクスだったり、人工知能だったり、いろんなことをやっている人たちがいたので、そこでフランクに情報交換をできたのは一番大きいメリットでしたね。
ご縁があって、このオフィスのオーナーさんと知り合ったのがきっかけです。我々の事業やビジョンに共感していただいたのが一番大きいですね。あとは、3Dスキャナーを弊社で保有しているのですが、天井高がないと厳しいんです。なので、天井高が十分に取れるオフィスを探していたこともあります。このオフィスのラボラトリー感というか、雰囲気も気に入っていますよ。
壁面の植物はもともとあったものなんです。ビルには「MORIAURA」と名前をつけています。「MORI」はラテン語のモリ、死、という意味で、「AURA」とは、ベンヤミンのアウラ、つまり2つでアウラの凋落となんとなく掛けています。意味はさておき、全体として言葉の響きが良いなと思って、造語にしたんです。まぁ、見た目が森っぽいので「MORI」は「森」でもいいです(笑)。
はい。うちのメディアアーティストのゴッドスコーピオンが斎主となり「移転式典」を執り行いました。移転式典にもストーリーがあるんです。
僕らは、VRという最先端テクノロジーを扱っている企業ですが、そのテクノロジーと人間がどう向き合うかを考えるきっかけをつくりたいと思ったんです。そこで、自分たちが「人類の原初である猿に戻る」というコンセプトを打ち出しました。実際に、みんなに猿のお面をかぶってもらって。入れ替わり立ち代わりで、総勢300名ぐらいの方に来てもらったんじゃないでしょうか。想像以上の反響でしたね。
IT企業というと、デジタルばかり扱うというか、アナログ的なものとは全然違う方向でやっているイメージがあると思うんです。でもVRって、ゴーグルで実際に見ているものは確かにデジタルですけど、本来はもっと広いものを指すと思っています。
例えば、神様を拝んだり、目に見えないものを信仰するのって、言ってしまえばバーチャルリアリティの世界です。物理的には存在しないけれど、人間が信じてこそ成り立つものすべてを含めて、僕らは物事を考えなきゃいけない。だから一度原初に帰ることで、我々にとってテクノロジーはどんな意味があるのかとか考えるきっかけにできたらいいなと思いました。
3階フリースペースの設計は、ファッションデザイナーの中里周子さん率いるNEWPARADISEがディレクションしてくださいました。その名も「POWER∞SPOT」。本物の水晶を部屋の中心に吊ったり、石をオフィスのあちこちに配置したりして。実際にパワーが湧き出る場所となっています。壁にかかっている絵は、高木真希人さんというアーティストの作品で。全体的に気に入ってます。
そうですね。展示会やリリースイベント、雑誌の撮影など、ファッションに関わる方々によく使っていただいています。ご紹介やお問い合わせを通じて、クリエイターやアーティストがいらっしゃることが多いです。
社内には、元々ファッションに興味がなかったエンジニアなどもいるんですが、こうしたクリエイターやアーティストがオフィスに来てくださることで、興味が湧くんですよね。異分野の人同士が交錯し、コラボレーションが生まれる、サロンのような場所でありたいと考えています。いろんな分野の人と知り合って知識を深めることができるのは、サービスを作る上でかなり大きなメリットですね。
僕ももともとずっとエンジニアだったんですけど、そういった業種・業界だと、ファッション関係の人と交わることってまずないんです。逆に、ファッション関係の人は同業の人とばかり関わっていて、業界そのものが閉ざされている。ファッションとテクノロジーを掛け合わせて、もっと何かできないか?と模索していくことが、僕らのサービス開発のモチベーションだったりするので、そういう意味では実際に人と人が交流するというのはとても重要かなと思っています。
2階は特にコンセプトなどを設けてはいないのですが、開発や作業がしやすい場にしたいと思っています。家具も非常に低価格でご提供いただいたり、IKEAで買ってきたものだったり、低コストでシンプルです。レイアウトは自由に柔軟に組み合わせていますね。4月にこのオフィスに来てから、3回ぐらい変わっているんじゃないかな。今もレイアウトを固定しているわけではなくて、より作業しやすいワークスペースを目指して変えたりしています。
はい。お客さんや遊びに来てくれた方に試してもらうために、常設しています。社内の開発者も積極的に使っていますよ。席に座りながらでもVRの開発はできるんですけど、実際に動き回ってみないと、インタラクティブな部分を確かめられないんですよね。そのときにある程度の広さが必要なので、席から離れて、体験スペースでテストしています。
働き方という点では、実験的な取り組みとして先月、外のカフェなどでの作業を回数制限付きで認めました。気分転換をしたい人には良かったみたいです。あとは……弊社の代表はVRの中で仕事をやっています(笑)。
VR空間の中に、デスクトップもブラウザも出てきて。デジタル空間なのでスクリーンも好きな場所に配置できるんですよ。普通、開発者やデザイナーって、机の上にメインディスプレイをおいて、もう一個ディスプレイを足してマルチディスプレイにしたりするじゃないですか。
VRを使えば物理的なスペースはいらないし、ウィンドウは開き放題。バーチャルオフィスって、技術的に実現可能なんです。キーボードを操作するなど文字入力面の課題はありますが、その辺の環境が整えばVRの中で仕事できる時代です。
face to faceで行うべきことも絶対残るとは思うんですけど、これからはほとんどの作業を遠隔地でやることができるようになってくるはずです。「実在感」があるような形で、インタビューだったり面接をするのも普通になってくるかもしれません。そうすると、働き方が根本から大きく変わるんじゃないかなと思いますね。
結構オフィスにいると落ち着くんですよ、僕。確かにコミュニケーション自体は、インターネットを通じていくらでもできるけれど、なんというか、同じ空間のなかで感情を分かち合うというのが一番大きい。そこが物理的なオフィスの持つ最たる意味なのかなと思いますね。
ただの業務連絡とか指示とかはメールやチャットで十分なんですけど、感情とか達成感とかを共有できるのはface to faceの醍醐味かなと思っていて。僕らはまだ小さい組織なので、そういうビジョンや感情の共有といった部分が、サービスの開発に影響してくると思っています。
一方、VRを使ってそれらをどこまで実現できるのか、果たして今のオフィスの代わりになり得るのか、というのは興味がありますけどね。
究極どうなるのでしょうか。個人的には、なくなりはしないと思いますね。少なくとも、僕は欲しいかな。人間って、一箇所にとどまるのが下手じゃないですか。例えば、「VRがあったら家の中で何でも完結するし、部屋を出なくてもいいじゃん」と思われがちなんですが、僕は逆に外に出るんじゃないかなと思っているんです。そこまで行くと、逆にリアルへの興味が戻ってきて、「普通のコミュニケーションが新鮮!」と感じる時代がくる。普段LINEばかりで電話が新鮮と感じる人がいるように。そんな感じで時代の流れが移り変わっていって、より対面のコミュニケーションが濃密になるんじゃないかなと思いますね。
VRがより身近になるよう、これからどんどん社会の環境が整っていくと思うんです。その時に、我々の『STYLY』というサービスが皆さんに寄り添っていけるようにしたいですね。順次開発は進めていますが、VRの空間を作れる人はまだ少ないので、ワークショップなどを通じて空間を作れるクリエイターを育成しているのが今の段階です。その人たちが育っていくと、YouTubeみたいな感じで勝手にコンテンツが増えていくと考えています。
『STYLY』というサービス自体も、このオフィスのようなリアルな場所も、そういったクリエイターやアーティストが交わる場所にしたいです。VRなんて全く違う分野だと思っていた人も、『STYLY』を通じて、VRの表現や創作をもっと自由にできるようにしたいですね。
(photo:服部健太郎/text:五月女菜穂)
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