HOME > officee magazine > 編集部コラム > 「大手町ビル」にテック系企業が集結。100年ビルに向けて進む変革とは
1958年(昭和33年)に竣工した歴史ある物件、大手町ビル。
そんな大手町ビルに今、スタートアップをはじめテック系企業が続々と集まってきています。
築60年以上経った物件で、今一体何が起こっているのでしょうか。
オーナー・三菱地所によって施された数々の“仕掛け”に迫ります。
東西200mという圧倒的な規模で、大手町のシンボルとして歴史を刻んできた大手町ビル。日本初の全館冷房を導入するなど、竣工当時は広く関心を集めました。
しかし、年月が経つにつれて建物は老朽化。周辺のビルも高度経済成長期の建設ラッシュで作られたものが多く、次々と建て替えの対象になりました。三菱地所の再開発によって大手町フィナンシャルシティグランキューブや大手町プレイスなど多くの高層オフィスが建設され、街の景観は大きく変わっていきます。
そんな中、大手町ビルに長く本社を置いていた三菱地所が大手町パークビルディングへの移転を発表。世間では「大手町ビルも近い内に建て替えになるのではないか」という憶測が飛び交いました。ところが、建設会社が建物の調査をしてみると、基礎となる骨格は非常に強度が高く、先40年以上は安全に利用できるという結果が。そこで三菱地所は、建て替えではなく修繕工事をして長期活用することを決断しました。
大手町駅直結というアクセスの良さは勿論のこと、何よりの強みは1フロア2,100坪以上という広さ。まとまった貸室面積を確保できるため、三菱地所やインテリジェンス、パーソルといった大企業の拠点として重宝されてきました。また、周辺で再開発が行われている間、移転先物件が完成するまでの言わば“仮の住まい”として貸室を供給することも多々あったのです。
大手町と言えば、4,000社以上もの企業が集うビジネスの中心地。しかし、当時はまだスタートアップがオフィスを構えるイメージは希薄で、渋谷や六本木といった「ベンチャー集積地」ならではの勢いはありませんでした。そこで三菱地所は、大手町ならではの土地柄を活かした企業誘致を構想。「大手企業とスタートアップが協業することで、新たなビジネスチャンスを創造できるような拠点を作れないか」と考えます。こうした経緯もあり、大手町ビルを全面的にリノベーションして成長企業を誘致していこうとする動きが加速化していきました。
大手町ビルに多くのテック系企業を呼び寄せる最大の鍵となったのが、日本初のフィンテック拠点「FINOLAB(フィノラボ)」でした。三菱地所と電通、電通国際情報サービスの協業で誕生した施設です。
2016年2月の立ち上げ当時は旧・東京銀行協会ビルにありましたが、想定以上の反響を呼んだためスペース不足に。わずか1年後の2017年2月に大手町ビルへ移転し、リニューアルオープンしました。ビル内での館内増床が可能となったことで、より多くの企業を誘致できるようになりました。
一般的なコワーキングスペースには無い、FINOLABならではの強み。それは、フィンテック企業の事業成長にとって“最適化された環境”が整っていることでしょう。
「Finovators(フィノベーターズ)」と呼ばれる専門家集団が同居し、スタートアップの事業成長を支援。許認可やライセンス、事業構想、資金調達、海外展開など、幅広い分野においてメンタリングを行います。さらに、投資家や需要家へのプレゼンやマッチング機会の創出や、スタートアップと参画企業による共同研究の推進を行うなど、バックアップは多岐に渡ります。
また、フィンテックのスタートアップが事務所を借りる際に直面しやすいセキュリティ面の課題もしっかりとクリア。独自の生体認証技術を展開する株式会社Liquidと協業し、全ての扉に指紋認証システムを導入しています。
FINOLABには、フィンテックだけでなくAIや生体認証、ロボティクスなど様々な企業が入居中。業界を跨いで交流を生み出し、新しいビジネスを創出する場として高い評価を受けているのです。
<主なFINOLAB会員> ※2018年10月現在
AI Inside/CAMPFIRE/BANQ/chaintope/curfex/folio/waranteeなど
FINOLABに続き、いま大手町ビル内で三菱地所が力を注いでいる施設があります。大手ソフトウェア会社SAPジャパンとの協業により2018年11月にオープンする施設「(仮称)TechLab」です。
(仮称)TechLabは、新規ビジネスの創出を目的としたビジネスイノベーションのためのコラボラティブスペース。SAPジャパンが発足した異業種コミュニティ「Business Innovators Network」に参画するステークホルダー(利害関係者)を中心として、大企業やスタートアップ、ベンチャーキャピタルなどが入居します。
施設内の特徴として、参加者同士のコミュニケーションを活性化するためのオープンスペースを用意し、ビジネスアイデアを具現化するための3Dプリンター、撮影スタジオなどを整備。また、デザイン思考などの手法を得意とする同社がイノベーションのために必要な支援プログラムを提供するなど、ハード・ソフト両面からのサポートを行うとのことです。
大手町ビル内で次第に濃度を増していくテック色。スタートアップ集積の流れを受け、大手企業にも少しずつ動きが見え始めました。
2018年7月、会計大手のKPMGジャパンは、あずさ監査法人との協業により「KPMGイグニション東京」を大手町ビル内に開設。デジタル技術を活用して日本企業のイノベーションを促進する新拠点として位置づけています。
KPMGイグニション東京は、「イノベーションラボ」「インサイトセンター」「テクノロジーセンター」の3つの施設で構成されています。施設の名称は、「点火」するという意味のIgnition(イグニション)に由来。オープンで斬新なオフィス環境での体験を通じ、同社の構造改革を推進していくと同時に、その経験や知見を活かしてクライアントが抱える専門的課題を解決に導くとしています。
また、トヨタ自動車も、大手町ビルに自動運転を支える周辺技術の開発拠点を設置(2018年10月現在で入居時期は未定)。既存のビジネスを維持・発展させながら「モビリティカンパニー」への変革に挑みます。同フロアに入る(仮称)TechLabなどと連携しながら、開発体制を強化していくそうです。
こうして、スタートアップだけでなく大企業も続々と大手町ビルに拠点を構えつつあり、企業の枠を超えた交流・協業が生まれていくであろうと予測されます。
三菱地所は2021年に向けて、大手町ビルの大規模リノベーション工事を進行中。建物と接する3つの通り、「大名小路」「日比谷通り」「丸の内仲通り」それぞれの歴史的背景やイメージが外観デザインに反映されるそうです。
また、ビルの東側半分を「LABゾーン」と位置づけ、個性溢れる企業のリーシングを推進。ハード面の改修だけでなく、スタートアップと大企業が交流する機能を随所に散りばめる方針です。
東側の内部は既にリノベーション工事が行われており、レトロさを残しつつスタイリッシュなデザインに仕上がっています。シリコンバレーのスタートアップが古い倉庫を再利用してオフィスを構えるように、大手町ビルに集うスタートアップも“新築物件にはない良さ”を求めているように感じられます。
「100年ビルへの挑戦」と銘打ち、大規模な変革を進める三菱地所。今後の動向から目が離せません。
(公開日:2018/10/24)
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