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「実際、フリーアドレスってどうなの?」ヤフーで働く人たちの声を聞いてみた

(撮影:服部健太郎、書き手:梁原・澤木)

ヤフーの「LODGE」は、“最強”のコワーキングスペース。

そんな噂を耳にしたのが、今回のインタビューのきっかけでした。コワーキングスペースがヤフー社内にあって、しかも日本最大級。受付票の記入と身分証の提示をするだけで、誰でも1DAY利用無料(2017年6月現在)。

インターネットユーザーなら、きっと誰もが知っているヤフーさん。でもそんなヤフーさんがどんな会社で、どんなオフィスにいて、どんな働き方をしているのか、意外と知らない。コワーキングスペース「LODGE」のこと、2016年10月に移転をした紀尾井町の新オフィスのこと、移転を機にフリーアドレス制を導入したこと。

ヤフー流「働き方改革」のこれまでと今、そしてこれからについてお聞きするため、移転プロジェクトを担当された、働き方改革推進室の古藤 遼さんと、社員を代表して、デザイナーの平野 彩花さんとエンジニアの澤田 泰良さんにお話を伺いました。(公開日:2017/06/15)

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(写真左から)働き方改革推進室の古藤さん、デザイナーの平野さん、エンジニアの澤田さん

── この紀尾井タワーに移転することになったのはどのような経緯でしたか?

古藤:六本木ヒルズから東京ミッドタウンに移転して、その後大きくなるに従って増床を繰り返していました。それでもスペースが足りなくなり、アークヒルズ サウスタワーも借りていて。そして、事業計画上、さらに人数が増えていくのに、これ以上増床が難しく、移転が決まりました。

移転プロジェクトは、副社長執行役員COO・川邊の直下で始動。2014年10月から2年間にわたって、週に1回1時間、私を含めたプロジェクトメンバーから副社長にレポートを出して、一緒に決めていきました。デスクをどうするか、打ち合わせスペースをどう設計するか、「通路」という考え方をどうするか‥‥など、課題は多岐にわたるので、結構大変でしたね(笑)。

── どのような経緯でフリーアドレス化に至ったのでしょうか?

古藤:おかげさまで「Yahoo! JAPAN」をはじめ、私たちのサービスはPCにおいて多くのユーザーにお使いいただいています。でもスマホだと、飛び抜けてヤフーのこのアプリをみんなが使っている、といったところまでは到達していません。ミッドタウンにいる時から、スマホ・アプリにシフトしていきましょう、という方針を打ち出していたんです。一方で、スマホはどこにいても使えるのに、自分たち自身がすごく固定的な働き方をしてしまっているというギャップがずっとありました。

この移転を機に、新しいサービスをどんどん作り出すために、イノベーション、「新結合」を生み出さないといけない。今まで話したことがなかったような人と集まり、人々を交わらせるための一つの運用として、フリーアドレス化という手段を選んだんです。

ヤフー 古藤 遼さん

コーポレートグループ コーポレートPD本部 働き方改革推進室 室長 古藤 遼さん

── 移転にあたって、どのような懸念がありましたか?

古藤:大掛かりな移転ですし、1週間でも遅れてしまったらとんでもないことになる。ですので、そもそも移転を完了させられるか、というのはプロジェクトを進める側としてヒリヒリしていました。そして、働き方を変えるということに対して、社員の戸惑いもあるだろうし、不満の声ばかりが挙がって、“逆戻り”してしまったらどうしよう、という不安がありましたね。うまく新しい環境を活用してほしいんだけど、その意図や想いが伝わらずに、働き方をUPDATEするという方向からずれてしまわないかと。

── 移転プロジェクトメンバーではない、社員側の目線で、不安なことはありましたか?

澤田:僕はエンジニアなんですけど、前のオフィスで固定席だった頃は、トレーダーのようにディスプレイを4つぐらい並べて、自分の“城”を築いていました。朝会社に来たら、コーヒーとハーブティーに紅茶、お水とオレンジジュースをデスクに用意して、今日はトイレに行く以外ここから動かない、という感じで(笑)。

ヤフー 澤田 泰良さん

コーポレート統括本部 コーポレートコミュニケーション本部:澤田 泰良さん

── 声をかけるのも躊躇してしまいそうですね‥‥。

澤田:周りからもよく言われていました。でも、エンジニアとしては、その環境が心地よかった部分もあって。そんな中突然、新しいオフィスではフリーアドレスになると聞いて、「この“お城”はどうするんだ」と不安になりましたね。と同時に、働き方・考え方を変えないといけないとも思いました。

── デザイナー目線ではいかがでしたか?

平野:自分専用の大きなモニターで、細かくキャリブレーション(色合わせ)をしてビジュアルの業務をするというデザイナーが多い中で、フリーアドレスになったら性能が悪いモニターばかりになっちゃうんでしょ、とか、ペンタブレットはどこに置けばいいの、とか、周りからも心配の声は挙がっていました。

ヤフー 平野 彩花さん

スタートページ事業本部 デザイナー/オープンイノベーション室 コワーク推進部:平野 彩花さん

── 新オフィスではそのあたりの対策はされていたのでしょうか?

平野:デザイナー用にいいモニターを用意してもらって、使いたい人は席に持っていく。ペンタブレットも共用の棚に置いてもらっています。でも、移転してわかったのは、モニターがなくても、ペンタブレットがなくても、意外と仕事はできるということ(笑)。むしろ、「これ1ピクセルずらしてください」「ずらしました」「やっぱり2ピクセルでお願いします」といったやりとりをエンジニアと隣同士で座って作業ができて効率が上がった、というのはありますね。

── 他にも、社員側の心配を解消できるような対策はされていましたか?

古藤:カンパニーや本部ごとに数名、「チェンジリーダー」という役割を担ってもらいました。移転をして「UPDATE働き方」の一環として、オフィスはフリーアドレスの運用に変わるということを伝達してもらい、また、自分たちは新しいオフィスの中で新しい働き方がよりよいものになるよう、課題があれば解決するというサイクルを回すから協力してね、と鼓舞してもらったんです。そして、先行して2フロアをオープンしたので、そのフロアを見たい人は見ていいですよ、という取り組みもやりました。新オフィスで実際に一日働いてみることで、不安を払拭してもらえたかなと思います。

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── 実際、フリーアドレスになっていかがでしょうか?

澤田:僕は、大きな会社だからこそフリーアドレスになったメリットが大きいと思っています。現在、ビッグデータを扱う仕事をしているため、会社の中でいろいろな部署との関わりがあります。たとえば今日はYahoo!ショッピングの仕事をする、となったら、まるでYahoo!ショッピングの部門の人かのようにYahoo!ショッピングの人が多く集まるフロアに行ったり、今日はヤフオク!だからそのフロアに、というように。

朝会社に行く時に、一日のスケジュールを見て、この仕事をするならどこの誰の近くに行けばいいんだろう、と考えて準備をしておく。仕事をする環境自体にスケジュールを組むという考え方を取り入れたことで、すごくやりやすくなりましたね。

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── ある意味「どこにいるかわからない」ようになるわけですね。

澤田:固定席だった時は、打ち合わせをしたい人が席にいなかったり会議が詰まっていたりすると、「予定が空いている来週で調整しよう」という思考になりがちでした。でもフリーアドレスになってからは、相手のスケジュールを見て、その人が会議をやっている場所の近くのフリー席で仕事をする。そして、出てきた瞬間をつかまえて、「5分だけお願いします」とその日に話せるようになったのは、すごく良かったかなと思います。フリーアドレスになって、仕事を進めるために手段も場所も問わない、という動きができるようになりました。

古藤:固定席でなくなったことで、どこかに行かなきゃいけないという考え方がまさに取り払われたわけです。どこに行っても良い、と。そんな中で、今日はこういう仕事をするからあそこに行こう、次はノイズのあるところで働こう、といったように、仕事をする環境を自分で選択する、ということがもっと起きてほしいなと思っています。

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澤田:フリーアドレスになったことで、業務に合わせて働き方を変えている人が自分の近くに“出没”して、フリーアドレスをうまく活用しているのを目にするようになったんですね。まだフリーアドレスに慣れきっていない人も、そういう人たちの真似をするようになって、社内に伝播していく。僕の働き方も、周りに真似されるようになったら嬉しいですね。

── 社内の空気が変わったと感じることはありますか?

平野:別部署同士のグループをよく見かけるようになりました。これまでは、お昼に外に出るにしても同じ部署同士のグループをよく見かけましたが、最近は社員食堂で別部署同士で食べているのをよく見ますね。

古藤:移転プロジェクトを進める中で、社員食堂ではいろんな人が混ざってほしいと考えていました。かつて社員食堂はオフィスから離れたところにあったんですけど、現在ではオフィス内にあるため、みんながそこに集まるようになり、「あっ、あの人がいる」という機会が増えるだろう、と。

── 新オフィスの象徴とも言える、コワーキングスペース「LODGE」。実際はどのような場所になっていますか?

平野:LODGEは、社内外の「情報の交差点」をコンセプトに作りました。移転直後、社員がいろんな人を連れてきてくれて、「ここはLODGEっていう場所でね‥‥」と誇らしげに説明してくれているシーンをよく見ました。最近では、近くにお勤めの会社の方を呼んで、ランチ会をしているところもよく見かけます。広告・プロモーションを派手にやったわけではないのに、おかげさまで、利用した方のクチコミや、イベントをきっかけに知っていただいた方がご利用いただくことも増えています。朝の時間帯を除いて、稼働率は常に90%を超えているイメージです。

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── 社員の方の利用状況はいかがでしょうか?

澤田:僕は元々LODGEのスタッフではなかったのですが、スタッフと勘違いされるぐらい入り浸っていました(笑)。いい意味で、あそこまでうるさい場所は社内に無いんですよ。仕事の内容によっては、うるさいからこそ心地良いというのもあって。ずっと静かなところにいると詰まってしまうような仕事も、いいノイズがあって発散するというか、捗ることがあります。

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── 社外の方との交流という点ではいかがでしょうか?

澤田:LODGEがあることで、会社にいながら、サービスのエンドユーザーさんに会えるんです。これまでは、通勤中だったりプライベートだったりで、たまに自分が作っているサービスを使っているという声をお聞きするぐらいでした。それが、LODGEにいると、使ってくれていることを知れたり、「このサービスいいですよね」と言ってもらえたり。自分の仕事をしながら、みなさんがどんなタイミングでスマホをどのくらいの時間見るのかとか、どういう行動をしているのかを見られるので、すごく参考になります。時には、サービス担当の人にすぐ連絡して共有したりしますね。

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平野:アプリを作っている時も、LODGEにいる方にちょっと話を聞いたりしてますよ。Yahoo!天気アプリ使ってますか、とか、どういう情報が見たいと思いますか、といったヒアリングもします。たまに、ブレストしたいので付き合ってもらえますか、と常連さんにお声がけして付き合ってもらったり。有り難いことに、協力的に応じていただけますね。

── 最後に、これからオフィスをどうしていきたいか教えてください。

平野:LODGEでは、お客さん同士のコミュニケーションや、ヤフーとのコラボレーションをもっと活発化する仕組みづくりに力を入れています。「コミュニケーター」という役割の人が、人と人を繋いでいるのですが、まだ足りない部分もあって。せっかくITの会社だから、ITの力を使いながら、もっとコラボレーションがたくさん生まれる場所にしていけたらなと思っています。

古藤:自身が持っている知識を交流させることで、成長やイノベーションを生むスピードをさらに加速していきたいと思っています。ですので、フリーアドレスについては、フロア内だけでなく、フロア間の移動がもっと活性化していくような施策を打っていきたいです。

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古藤:また、移転が完了したからってオフィス改革も働き方改革も終わるわけではない、とも思っています。移転する前から、みんなで使って、使いやすいようにカスタマイズするという考え方を持ってほしいと言い続けてきました。それが「Hackable(ハッカブル)」というコンセプトであり、そこには「未完成です」という意味も込めています。移転が終わったら完成ではなく、これからも一緒に作っていきましょうというメッセージです。なので、これからもみんなとどんどん改善していきたいですね。

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