HOME > officee magazine > 編集部コラム > オフィス移転遍歴から見るグリー株式会社の歴史とは
グリー創業者の田中良和氏は、インターネットを通じたコミュニティの広がりに可能性を感じ、新しいSNSサービスの立ち上げを構想。当時まだ楽天株式会社のエンジニアでありながら、2003年の秋ごろから一人で『GREE』の開発を始め、2004年2月にアルファ版をリリースしました。
『GREE』という名前は、米国の社会心理学者スタンレー・ミルグラムが唱えた「Six De“gree”s of Separation」(六次の隔たり)に由来しています。これは、「全ての人や物事は6ステップ以内でつながっていて、知り合いの知り合いを辿っていくと、世界中の人々とつながりを持つことができる」という仮説です。田中氏は、「ネットワークやコミュニケーションに代表されるインターネットの面白さ・便利さ・楽しさを新しく生み出していく存在でありたい」というメッセージを『GREE』に込めたそうです。
もともと田中氏が趣味で始めたサービスにも関わらず、『GREE』は瞬く間に口コミで広まり、リリースからわずか1ヶ月で会員数1万人を突破。
『GREE』誕生のちょうど1年前には、同じくSNSの草分けである『mixi』がリリースされ、SNSサービスが世間一般でも広まりつつある時代だったのです。
会員数が急増していくなかで、田中氏は一人で『GREE』を運営していくことに限界を感じていました。より良いサービスを追求するためには、組織の編成と収益化が必要であると、法人の立ち上げを決意。勤めていた楽天株式会社を退職します。『GREE』リリースから約10ヶ月後、2004年末のことでした。
グリー株式会社として法人化した頃には、『GREE』の会員数はもう10万人を超えるほどになっていました。大学時代に田中氏がインターンで知り合った山岸広太郎氏を副社長に迎え、港区白金にあるマンションでわずか10畳の一室を借りたそうです。
在籍わずか1~2名ではありながら、ようやく法人としての歩みを始めたグリー株式会社。しかし、目の前には既に社員30~40名を抱える、株式会社ミクシィという大きな壁が立ちはだかっていたのです。
ほどなくして、グリー株式会社は麻布十番の小さなオフィスに移転します。
この頃田中氏の誘いで参画したのが、「PHPの神」と呼ばれ、のちにグリー株式会社の技術面を支えることとなる藤本真樹氏です。
社員はまだ2~3名で、学生インターンが数人という状況でした。当時、面接時に田中氏がよく口にしていたのは、「15万ユーザーが利用するサービスを自分の好きなように変えられる」という言葉。まさにその言葉通り、学生や社会人、経験の有無も問わず、あらゆる業務を任せていたといいます。
事業拡大のためには、優秀な人材の確保が何よりも急務でした。2005年6月に、ベンチャーキャピタルから約1億円の資金を調達し、翌7月にはランディック六本木ビルに移転します。この時、オフィス面積は約50坪でした。この移転以降、同社は長く六本木に腰を据えることとなります。
2005年9月には、携帯電話用サービス『GREEモバイル』を開始。また、10月には『GREE』をアルファ版からベータ版へとバージョンアップし、サービス開始以来初のリニューアルを実施します。
「今後のインターネットは、モバイルが鍵になる」と考え、早くからモバイルシフトへの舵をとった結果、『GREE』は国内の通信業界から高い注目を受けることとなりました。
2006年3月には、ドイツ証券の投資銀行部門で経験を積んだ青柳直樹氏が参画。財務責任者として手腕を振るいます。同年7月には青柳氏が懇意にしていたKDDIとグリー経営陣を引き合わせ、KDDIから3億6400万円の出資を獲得。同時にauの顧客向けサービスとして『GREE』が採用され、飛躍的に会員数を伸ばしていきます。
人材と資金を確保しながら、猛進を続けていたグリー株式会社。2007年2月には、六本木山田ビルへと移転し、オフィス面積は約3倍の160坪に拡張します。
ここまで順調にサービスを拡大してきたように思われますが、実はこの頃『GREE』は他の競合SNSから大差をつけられていました。2007年3月時点での会員数を見てみると、常に先を走ってきた『mixi』が920万人、また、2006年にサービスを開始したばかりの『モバゲータウン』が440万人。比べて、『GREE』はわずか100万人しかいなかったのです。会社の経営状況も、決して芳しいものではありませんでした。
追い詰められたグリー株式会社。当時の財務責任者である青柳氏は、赤字の財務資料を全社に見せながらこう語ったと言います。
「モバイル向けのGREEを立ち上げただけでは収益は生まれない。会員数をもっと飛躍的に増やすか、新たな収益源を見つけるか、両方やるかしなければ、グリーに未来はないと思います」
田中氏も、PC・モバイルの広告収入を主とするグリー株式会社のビジネスモデルに限界を感じていました。同社はついに、ゲーム市場への本格的な参入を決断します。
2007年5月、グリー株式会社は世界初のモバイルソーシャルゲーム『釣り☆スタ』をリリース。サービス自体は誰でも無料で利用でき、ゲームを有利にすすめるためのアイテムで課金するという、ソーシャルゲームのビジネスモデルを確立していきます。SNS運営の強みを活かし、ユーザー同士のコミュニケーション要素を巧みに織り交ぜた新感覚のゲームは、史上稀に見る大ヒットを記録します。
また、同年7月にリリースしたペット育成ゲーム『踊り子クリノッペ』が更なるヒットを記録。それまで広告収入を柱としていたグリー株式会社は、ゲームの課金による収入によって飛躍的に売上高を伸ばしていきました。
六本木山田ビル入居からわずか1年後、2008年3月には黒崎ビルに移転。オフィス面積はさらに増え、約400坪を賃貸することになります。
グリー株式会社が移転の度に六本木を選択してきた理由としては、渋谷から六本木周辺にかけてIT企業が集中しており、中でも六本木はネットビジネスの中心になると考えていたことが挙げられます。
また、当時すぐ近くの赤坂で再開発が進んでいたことや、近隣エリアから自転車・徒歩で通勤する社員が多かったこともあり、利便性という面でも六本木には強いこだわりを持っていたようです。
2008年8月には、探検ゲーム『探検ドリランド』を、さらに翌9月にはガーデニングゲーム『ハコニワ』をリリースするなど、モバイル向けの新作ゲームを次々と発表。
そして、2008年12月、グリー株式会社は東京証券取引所マザーズに上場します。上場時の社員数は約100名だったそうです。急速な人員増加を見越して、あらかじめ広いオフィスを賃貸していたことがうかがえます。
2009年3月には、『GREE』がモバイルからのアクセスで100億PVを突破。長い間その背中を追い続けてきた競合mixiと、ついに肩を並べます。
翌2010年6月には、マザーズから東証一部に市場変更し、約36億円を調達しました。
東証一部上場の翌月、グリー株式会社は六本木ヒルズ森タワーに移転。現在も、こちらに本社機能を置いています。移転時には使用面積が1,000坪を超え、2012年にはさらに館内で増床、4,500坪ほどの面積を賃貸したそうです。
元々六本木ヒルズへのこだわりはなく、エリアだけを絞って移転先を探していたようですが、グリー株式会社がこの選択で得たメリットは非常に大きかったと言えます。六本木におけるランドマークタワーとしての存在感もさることながら、企業の成長スピードにも追いつく十分な貸室供給があったのです。結果的に、2010年の移転以降、一度も拠点を移すことなく同ビル内で増床することができました。急成長のさなかに六本木ヒルズを選択したグリー株式会社には、やはり先見の明があったと思わざるを得ません。
創立10周年の節目である2014年には、社員からあがったアイデアをもとにして、新たに「Quiet Room」 と「Brainstorming Room」という部屋をつくるなど、貸室をより効率的に使用するためのプロジェクトを実施したそう。また、経営や事業の急な変化にも対応できるよう、オフィス市況の動向にも常にアンテナを張っているようです。
決して現状に満足することなく、より良いオフィス環境を追求していこうとするグリー株式会社のベンチャーマインド。それは、数多の成長企業が目指すべき姿勢といえるのではないでしょうか。
(text:澤木香織)
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