HOME > officee magazine > 編集部コラム > オフィスニーズ調査から見る市場動向(2020)
森ビルが実施した「東京23区オフィスニーズに関する調査」のレポートが発表されました。
主に東京23区に本社が立地する企業で、資本金上位の約1万社を対象としています。
最新のオフィスニーズと市場の動向、今後想定される動きについて解説したいと思います。
まず、オフィス移転のニーズについて。
オフィスの新規賃貸借予定が「ある」と回答した企業は、全体の27%。うち6割以上が拡張移転を予定しているとのことでした。
オフィスの新規賃借の理由は「業容・人員拡大」が44%で最も多く、続いて「立地の良いビルに移りたい」「1フロア面積が大きなビルに移りたい」という理由が続きます。
しかし、昨今の空室率低下の影響で、オフィスの賃料は年々値上げしています。
直近の賃料改定で「賃料が増額となった」と回答した企業は93%もおり、森ビルの調査開始以来最大となったそうです。
一方、オフィスを新規賃借するにあたり「妥当だと考える月額賃料」は、坪単価2.5万円以上の価格帯で回答する割合が増加傾向にあるとのこと。2019年の調査では、その中でも高額となる3.5万円以上の価格帯での回答が目立っていました。
賃料増加の傾向はテナントにとって不利であることは間違いありませんが、「この市況ではやむを得ない」と捉えている企業も多いようです。
ちなみに、2008年頃のオフィスニーズを振り返ってみると…
新規賃借予定「有り」の割合はわずか13%で、最新結果の半分程度でした。世界的な金融危機「リーマンショック」の直後ということで、急激に移転需要が落ち込んだ年だったのです。
ところが、翌年の2009年には新規賃借予定「有り」の割合が21%にまで上昇。外資系企業や金融・保険業を中心に、業績がスピーディーに回復したことが影響したようです。
★なぜオフィスニーズが回復したのか?
リーマンショックに馴染みのない方もいらっしゃると思うので簡単に説明すると、2008年9月にアメリカの大手投資銀行のリーマンブラザーズが破綻し、世界的な金融危機に発展した事象のことを指しています。
日本経済は、アメリカ経済の影響を大きく受けます。リーマンショックでは低所得者向けの住宅ローンを集めた金融商品「サブプライムローン」が大量に焦げ付き、アメリカの住宅バブルが崩壊。その結果、日本でも不動産や住宅に対する融資が厳しくなるなど、関連する業種に影響を与えました。
とくに原価が大きくかかる業種(製造業や建設業など)は、ひとまず資金の流出を抑える動きをとり、固定費となるオフィス賃料を増やしたくないという考えから移転を控える傾向に。反面、IT系や保険業や不動産仲介業といった原価が掛かりにくい企業は影響が少なく、リーマン・ショック後も業績・人員拡大をしながら成長できる機会があったため、オフィスニーズが回復していったと考えられます。
そして、今後のオフィス市場はどうなっていくのでしょうか。
森ビルの調査結果によると、
・東京23区の18年末の空室率は1.9%まで低下し、2000年以来18年ぶりの1%台となった。
・19年末の空室率は、堅調なオフィス需要により、2.0%と低水準を維持すると予想。
・20年末の空室率は、供給量増加により2.3%へ小幅上昇と予想。
ということで、しばらくは需要>供給という関係が続くのではないかと見られています。
一方、国内大手仲介会社CBREの発表によると、2021年に向けて「オフィスビルはタイトな需給環境を背景に東京以外の全都市で今後も賃料は上昇」と予測されています。オフィスマーケットは日本をとりまく諸外国の動向や景気・為替の影響を受けやすいのが特徴の一つなので、同社の予測通り、賃料の高騰化はまだ続くでしょう。
また、「世界的にインフレ率は抑制されており、低金利環境も今後しばらくは続く」「米中貿易摩擦ならびに英国のEU離脱に対する懸念もいったんは和らいでいる」との見解もあるので、オフィス需要が急激に減少するようなマイナス要因も少ないのではないかと思われます。
反面、「Aグレード」と呼ばれる大型ビルを除けば、賃料の高騰に対する抑制力が少しずつ強まってきているのも事実。これまではテナント募集が公表されるのを待たずして次の契約が決まってしまうほどのスピード感で、分かりやすいほどの貸し手優位な状況でしたが、ここ最近は次のテナントが決まらずに「即日入居」で募集が出ている事例も出てきました。つまり、賃料高騰を受けて借主が新規賃借の様子見をするような局面も大いにあるということです。
賃料高騰に歯止めがかかりつつある状況に対し、ビルオーナーはどのような動きを見せるのか。今後も注目していきたいところですね。
(記事公開日:2020/01/30)
<参考>
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